Rising-Wolf of Wilderness

今から二十数年前のこと…
星霊建築の文明とは無縁の地、都市に住まう者達からは『辺境の地』と呼ばれる荒れ野…

日々を生き抜く事すら厳しいこの地において、逞しく生きる誇り高き民の姿があった。

『ガルゥシャの民』　都市を行き交う冒険商人達からはそう呼ばれる辺境を生きる一部族がある。
彼ら『ガルゥシャの民』はこの世の全てには“魂”（スピリット）と呼ばれる精霊が宿ると信じ、鳥獣と心通わせ相棒とし、狩りにて生を営む狩猟民族である。

十の氏族からなるガルゥシャ一族は、通常各氏族単位で行動し、思い思いの場所を流離う民族である。
だが、ちょうどこの年は全てのガルゥシャ族が一所に集結し、一月に渡って交流を図る四年に一度の【精霊祭】が開かれていた。

この精霊祭では、少数民族に起こりやすい近親交配を防ぐ為にも各氏族間の交流、人員の異動も行われる。
氏族の異動を希望する者は、自らが属する氏族の長と新たに属する氏族の長の両名に認められれば誰でも氏族を移ることが出来る。

この年も少なくない者達が各氏族間を行き来したのだった。
そんな中、【山猫の氏族】きっての美貌を誇る赤毛の若い娘が【狼の氏族】へと移った事は、この年の精霊祭一番の話題となった。

自らを高める為、己が学ぶべきものを見出し他の氏族に移るものもいるが、多くの場合、惹かれる相手を追って他の氏族へと移る者が大半を占める。
山猫の美しき娘も狼の氏族へと移り来たのには気になる相手がいた様子であった。
美と気まぐれを司る【山猫の氏族】において随一の美貌を誇るその娘の心を射止めたのは…
絆と戦を司る【狼の氏族】において強烈な統率力とガルゥシャ族最強と噂されるずば抜けた戦闘力を誇る、稀代の英雄の呼び声高い若き戦士だった。

若き二人は互いに惹かれあい、愛を育み…しばらくして一族の皆から祝福され夫婦となった。
そして…やがて二人は子を儲けた。

ガルゥシャ族【狼の氏族】最強の戦士と絶世の美女から生まれた赤子は不思議な力を授かり生を受けた。
この赤子は生まれながらにして他人の瞳からその者の終焉を知る事の出来る力を持っていた。
この赤子が最悪なる終焉を打ち砕く者として『ライジングウルフ』と呼ばれるようになるのはもう少し後のことである…
 

[1回]